北海道立釧路芸術館

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【展覧会出品作品紹介 その2】 道東の大地を撮る視点

 

   釧路芸術館で2024年12月8日まで開催中の特別展「自然へのまなざし 天と地と」の出品作品には、釧路周辺の地を被写体にした写真作品も出品されました。日本を代表する自然写真家の一人であり、釧路管内弟子屈町を拠点に活動を続ける水越武(1938年生)にとって、写真は自然界の生態系を記述し表現する手段です。

左 水越 武 〈水の回廊・日本列島〉より 凍結した森、阿寒 1987(昭和62)年 北海道立釧路芸術館蔵

右 水越 武 〈水の回廊・日本列島〉より 雄阿寒岳山麓の針葉樹林、阿寒 1997(平成9)年 北海道立釧路芸術館蔵

 

 雄阿寒岳周辺には、日本でも数少ない針葉樹主体の原生林が存在し、冬の晴れた日には、森林一帯が静寂に包まれるといいます。作者は、1980年代から日本の原生林に強い関心を向け、撮影を続けてきました。画面には俯瞰する視点で一面にエゾマツ・トドマツの植生が広がり、この地域の森の特徴的な姿があらわれています。整然と並ぶ木々の姿からは、自然が本来有するリズムと緊張感が伝わりますが、これらは作者が考える美しい自然の条件の一つであるといいます。日本と世界各地の原生林を取材した写真家だからこそ見出すことができた、地元の特徴的な景観でした。

 愛知県豊橋市出身の水越武は、幼少の頃から山岳に親しむ環境に育ち、27歳の時に日本の山岳写真のパイオニアであった田淵行男に師事しました。日本列島のみならず、世界の高峰や原生林など、人の手の加わっていない原生の自然を題材に写真作品を発表し、1999年には写真集『森林列島』で第18回土門拳賞を受賞しました。

 写真による地域の記録とその表現には、自然誌以外の視点も存在します。写真家・露口啓二(1950年生)の写真は、中標津町計根別の光景をとらえた作品です。

露口啓二〈地名 計根別〉/Kenebetsu/kene-ka〈pet〉(ハンの木・の上手〈の川〉=”Han” trees growing thick together 〈of a river〉)左:2003(平成15)年 右:2002(平成14)年  北海道立近代美術館

 

 計根別(けねべつ)は、アイヌ語で(ハンノキ・の上手〈の川〉)を意味することばが語源といわれます。ハンノキは衣服の染料の材料となり、アイヌの人々の暮らしに重要な植物でした。幕末の探検家、松浦武四郎もこの地域にはハンノキ(ケネ)に関係する地名が点在すると記しています。この写真でも語源どおり川辺にハンノキの茂みがみられます。しかし、川には看板が打ち捨てられ、隣り合う整地された農地と対照的な荒れた光景からは、ハンノキから染料をとり川でサケ漁を行う先住民の文化から遠く離れてしまった現代の社会の姿を見ることができます。これらの写真を読み取ることは、風景に潜む歴史に注目し平凡な光景の中から過去の人々の「語られない声」、「語りえない声」に耳を傾ける行為といえるでしょう。また、二人の写真家がそれぞれ撮影した光景は、原生の自然と人手の加わった場所の自然景観について、意外な様相を教えてくれます。

 露口啓二は徳島県生まれ。中央大学を卒業後、1976年に札幌へ移住し45年間、広告やデザイン業界のカメラマンとして活動しました。1981年から自身の作品の発表をはじめます。1990年代からは土地の歴史の痕跡を主題にした「地名」シリ-ズを制作し、個展の開催や国内外での現代写真の企画展への出品、写真集の刊行を続け評価を重ねています。