北海道立釧路芸術館

北海道立釧路芸術館のブログです。北海道釧路からさまざまな情報をお届けします。

【旅とアート 巡る・還る】閉幕しました

まもなく5月。釧路もようやく、春らしくなってきました。桜が咲くのはGWが終わった頃でしょうか❀
本日は、2021年2月6日(土)~4月11日(日)に開催した、北海道立釧路芸術館のコレクション展【旅とアート 巡(めぐ)る・還(めぐ)る】をご報告します。
芸術家の着想源として重要な役割を果たしてきた「旅」をテーマに、当館が所蔵する油彩、日本画、版画、彫刻、写真作品、計62点をご覧いただきました。

本展のキーワードは「巡る」と「還る」、ふたつの「めぐる」です。
「巡」は「まわる」「視察する」、「還」は「たちかえる」「もどる」などという意味の漢字です。


展示室に入ってすぐ皆さまをお迎えした作品は、丸山直文〈Color Shadows〉(2003-04年)。
にじんだ色彩とあいまいな輪郭線は、いつか見た夢のような、不思議な懐かしさを感じさせます。ここから異郷を「巡る」旅、故郷へ「還る」旅が始まります。

展示の前半「巡る」の章では、アーティストが異郷を旅して制作した作品をご覧いただきました。


岩橋英遠の〈彩雲〉(1979年)は、作者が洞爺湖付近を訪れた際に目にした一瞬の光景を描いた作品です。
「彩雲」とは、雲に差し込んだ太陽光によって、雲の一部に虹の彩りのある光が見えることで、ブロッケン現象と呼ばれます。作者は驚きと感動のままにこの雲をすぐさま写生し、作品にしました。


釧路市出身のフリー・ジャーナリスト、長倉洋海が世界各地で撮影した写真作品は10点展示しました。ポスターやチラシに使用した〈シルクロード冬虫夏草をとりに山に向かう少年〉も氏の作品です。
手前は舟越保武〈若き石川啄木〉(1965年。「啄」は旁の中央に点)。幣舞橋の〈春〉の像の作者としてお馴染みの彫刻家・舟越保武と、76日間とはいえ釧路に滞在し、その足跡が今も語り継がれる石川啄木。実は2人とも同じ学校(県立盛岡中学校。現・盛岡第一高等学校)の卒業生であるという縁があります(啄木のほうが20歳以上年上ですが)。


ニューヨークを拠点に活躍する現代美術家杉本博司の〈SEASCAPES〉は、世界各地に赴いて空と海面だけを映したシリーズ。どの作品も水平線が画面の中央になるよう厳密に構図が定められています。波の様子や天候、時間帯の違いなどにより、同じ景色はひとつとしてありません。
上掲した写真では一部見切れていますが、当館が所蔵する10点を、久しぶりに全点展示することができました。


後半「還る」では、私たちが暮らす釧路・根室地方に立ち返り、この地を見つめて表現する作家の作品を展示しました。


手前の迫力ある彫刻は、中江紀洋〈回帰(終章)〉(2010年)。鮭をかたどった木製の彫刻群の上に、倒木に見立てたワイン樽片が幾重にも重なります。幼い頃から道東の大自然に親しむ作者が、釣りの途中で見た光景から発想を得たものです。
奥の絵画のうち、右側は、根室の叢を描き続けた高坂和子の〈路傍抄〉(1984年)。左側は、釧路の港をテーマとし続け、釧路の美術教育にも尽力した望月正男の〈落日〉(1975年)です。


視点を変えて映した写真です。
左奥に見えるのは、池田良二〈An inside frontier(内在する辺境)〉(1990年)。池田の故郷である根室の落石岬に佇む旧落石無線局は、彼の制作において重要なモチーフです。フォト・エッチングをはじめとする銅版画の技法により、無線局が積み重ねてきた時間の経過が、静謐に表現されます。
右は、羽生輝〈北の浜辺(小島望、大黒島望)〉(1996年)。冬の、暗く静かな海の向こうに、厚岸町の沿岸に浮かぶ島々が見えます。人の姿は描かれていませんが、立ち並ぶ家々の窓には所々あかりが灯っており、凍える港町に息づく、人々の生活の温もりが感じられます。



新型コロナウイルスの影響により、国内外への移動が制限される生活が、1年以上続いています。閉塞感が漂う中で、アートを通じて少しでも旅行気分が味わっていただければと思い、本展を企画しました。
一方、遠くへ出かけにくいこの現状において、地域の魅力をその地域で暮らす人自身が見つめ直す動きが活発になっています。
この状況下ですので、ご来場くださった方は、釧路・根室地方にお住まいの方が多かったかと思います。本展が、今わたしたちが暮らすこの地そのものの魅力に思いを「めぐらせて」いただく機会となったとするならば幸いです。

異郷を旅して生まれた「巡る」作品と、地域に根ざす「還る」作品は相反するように感じられるかもしれませんが、芸術家がその地に身を置くところから制作が始まるという点では一致しています。
リモートやバーチャルの技術がめざましく発達する昨今において、特定の場所での実際の体験に基づく作品は、ますます強力なメッセージをもつようになるでしょう。


開催中はギャラリー・ツアーを6回実施し、学芸員が解説をしながら作品を鑑賞しました。
ご参加いただいた皆さま、ありがとうございます。
(こちらの作品は「巡る」の章より、田中良〈オホーツク〉(1989年)です)




本展は閉幕しましたが、開催中の【花と樹の王国】、【新収蔵展示 奈良原一高の写真】でも当館のコレクションをお楽しみいただけます♪
会期はいずれも6月30日(水)まで。ギャラリー・ツアーやワークショップなど、楽しいイベントもございます。詳細は釧路芸術館HPをご確認ください!