ようこそ「ビーズのはなやぎ・刺繍の美」展へ❹
【 ようこそ「ビーズのはなやぎ・刺繍の美」展へ❹ 】
今回はロシア、カムチャッカ地方とアムール川流域に暮らす民族の作品をご紹介します。まずはカムチャッカ地方に暮らすコリヤークから。

写真右は〈女性用ビーズ装飾付きトナカイ皮製衣服〉。

ハンノキで赤茶色に染められたトナカイ皮製の生地に、色とりどりのビーズを使った飾りがつけられています。


ビーズの彩り、輝きが際立つたくさんの素敵なオーナメントは、コリヤークの女性たちが日頃からなめした皮や布にビーズ刺繍をほどこして、つくりだめているもの。衣服や帽子を新調するときに、こうした飾りをアップリケしていくのです。

ビーズ装飾をあしらった帽子も、特集してご紹介しています。装飾の丸いかたちは、守り神である月や太陽をあらわしています。

子どもの帽子には、トナカイの耳がそのままつけられているものも。人びとが動物の毛皮や身体の一部を身に着ける背景には、動物の力をいただくという意味もあると考えられています。

花を想わせる模様のビーズ刺繍がほどこされた右の作品は〈針さし〉(展示しているのと反対面がクッションになっています)。また、左にみえるのはトナカイの骨(もしくは角)に彫刻をほどこした〈針入れ〉です。このシリーズの初回でご紹介した北海道アイヌの作品にも、木製の針入れが含まれていました。

おまじないや儀式にかかわる品々にも、ビーズが用いられています。こちらは〈お守り〉。ひとをかたどったふたつのオブジェが手をとり合うように、紐やリボンでひとつに結び合わされています。何事かあると人びとはこれを戸口に下げて、食べものを与えてきたといいます。「甘いもの好き」というエピソードを聞くと、祈りや願いを託すお守りが、愛すべき妖精にもみえてきます。

つづいてアムール川流域に暮らしてきたツングース諸民族の作品をご紹介します。

こちらはナーナイの〈花嫁用刺繍付き衣服〉。絵柄ばかりではなく、豊富な色数による刺繍糸の配色まで、緻密に左右対称に構成された刺繍が全面にほどこされています。

黒地の部分には、生命樹と呼ばれるモチーフがあらわされています。木の周りに鳥たちや鹿、魚やカエル、トカゲのような生きものの姿が…! 花嫁が新しい生命や沢山の幸福に恵まれるよう願う思いが込められています。

背中は布地を白、茶色、白と三つに色分けして、上からそれぞれ天上界、祖先が暮らす森、現世をあらわしています。天上界にあたる一番上の部分には、龍のモチーフが刺繍されています。淡い色調も用いられていて、優しく神秘的な印象です。
ナーナイなどアムール川流域の民族の刺繍には、北海道やサハリンの民族文様とも通じる渦巻きがみられますが、それとともに具象的な動物や生きものをモチーフとしている点に特徴があります。

前身頃には、龍のうろこ模様の図案が全面にあらわされています。会場では前後ともご覧いただけるように展示しています。

刺繍の制作過程の見本や型紙もご紹介しています。ナーナイの人びとの刺繍は、型紙や芯になる糸などを刺繍糸で巻き込んでつくられているため、刺繍がより厚みをもって布地から浮かび上がってみえる効果をもたらしています。

後ろ身頃に龍のうろこ模様を配した〈子ども用衣服〉と、魚皮を多用することで知られるナーナイに特徴的な〈魚皮製衣服〉。このほかにも日用品や、作品として制作された壁かけにも緻密な刺繍がほどこされています。

ナーナイに加えて、ウリチ、エベンキの人びとの壁かけ作品もご紹介しています。見事な手仕事の技とともに、あちこちに散りばめられた動物たちを探しながら鑑賞するのも楽しいセクションになっています。
次回は最終回。サハ共和国、モンゴル、さらに西へ進み、北欧に暮らす北方民族の作品をご紹介します。(北海道立釧路芸術館/藤原乃里子)